

乗り鉄の最終目標「日本の鉄道全線完乗」を目指す旅。今回は破格値のフリーきっぷを使って、滋賀県の「近江鉄道」と「信楽高原鐵道」を巡ります。
- 破格値のフリーきっぷで乗り鉄旅へ
- 急勾配とカーブが続く峠越え
- 信楽焼のたぬきがお出迎え
- 懐かしの赤電塗装
- クラウドファンディングで蘇った日野駅
- 歴史や貴重な鉄道用品を展示、近江鉄道ミュージアム
- 老朽化が進む貴重な駅舎、新八日市駅
- 多賀大社への参拝者を運ぶ多賀線
- 鉄道の町「米原」へ
破格値のフリーきっぷで乗り鉄旅へ
JR草津線、近江鉄道、信楽高原鐵道の3線が接続する「貴生川駅」から旅はスタート。
まずは今日使用するきっぷを購入するため、近江鉄道の窓口へ。
購入したのは「びわこ京阪奈フリーきっぷ」。土日祝日に限り、近江鉄道と信楽高原鐵道が1日乗り放題で1050円。
近江鉄道の、同じく土日祝日に使える「スマイルチケット」が950円。信楽高原鐵道の1日乗車券が1000円。両社のフリーきっぷより、なんと900円もお得!
米原駅から近江鉄道・信楽高原鐵道を経由してJR学研都市線に至る新線を建設する構想が、びわこ京阪奈線と呼ばれているのだそう。びわこ京阪奈線を実現させるべく、まずは「みんなで公共交通機関を利用しましょう」と企画されたのが、このきっぷなのです。
きっぷを購入したあとは、再びJRの改札を入り信楽高原鐵道のホームへ。貴生川駅には信楽高原鐵道の窓口がないので、近江鉄道まで購入しに行ったのです。
急勾配とカーブが続く峠越え
しばらくして、列車がやってきました!
最近はカラフルな色の車両が多いですが、なかなか渋いボディカラー。信楽焼をイメージしているのかな?私は好きです!
車内はロングシートです。
あちこちにたぬきさんが隠れています(笑)
信楽町は、2020年3月まで放送されていたNHKの連続テレビ小説「スカーレット」の舞台。
車内には、主演の戸田恵梨香さんのサインが飾られていました。
列車は、陶器の町「信楽」へ向けて出発。
しばらく走ると、線路が目の前に立ちはだかるような光景が現れます。ここから先は最大33パーミルの急勾配。
貴生川から最初の駅「紫香楽宮跡駅」までは9.6km。高低差170mある庚申山の峠を、急勾配と曲線で越えていく信楽線。先ほどまでいた貴生川の町が眼下に。
ずーっと登り勾配。高鳴るエンジン。
勾配の途中、少し平坦になったところで見えてきたのは小野谷信号場。ここは1991年(平成3年)の事故からは使用停止、反対線路のレールは錆びています。小野谷信号場の先で悲惨な事故が起きました。
新名神高速道路の高架下をくぐるとようやく登り勾配は終わり、最初の駅「紫香楽宮跡駅」に到着。
駅名の由来は、近くには聖武天皇が天平17年(745年)に遷都した紫香楽宮跡があるからだそう。
ここから先は、信楽盆地ののどかな田園風景を眺めながら走ります。
信楽焼のたぬきがお出迎え
貴生川から約25分で、終点の「信楽駅」に到着。信楽焼といえばたぬき!という事で、たぬきの置き物がお出迎え。
向かいのホームにもたぬき!
こんなにずらーっとたぬき!!
駅前にはどーーんとたぬき!!!
ちょうどランチの時間になったので、駅前にある「そば処 山久」で、ざる蕎麦を。
イチロー選手や松井選手など、有名プロ野球選手のバットを作っていた職人がオーナーという蕎麦店。蕎麦を伸ばす麺棒は、その職人が作っているのだそう。
歯ごたえがあってコシの強い蕎麦。香りもしっかり広がります。美味しい!
信楽駅から再び列車に乗り、貴生川へ戻ります。
駅内にある待合室には、1991年(平成3年)な発生した列車衝突事故の事故車両の一部が展示されていました。二度とこのような事故を起こさないように、私も交通従業員の1人として改めて身の引き締まる思いです。
復路も同じ車両でした。途中に行き違い設備がなく、また片道30分弱の距離なので、1両がピストンで運行しているようです。
懐かしの赤電塗装
再び「貴生川駅」に戻ってきました。今度こそ、近江鉄道に乗車します。
止まっていたのは!やった!赤電だー!
かつて近江鉄道の電車がまとっていた赤電塗装が、2016年に創業120周年を記念して復活。
1編成しかない貴重な『赤電』なのです!
がらーんとした車内のまま、電車は「貴生川駅」を発車。
田園風景の中を走ります。
あれ?自転車持ってる人がいる。
近江鉄道では一部の区間と駅を除いて、平日昼間と土日祝日の終日は自転車の持ち込みができます。そういえば、岐阜県の養老鉄道も自転車を持ち込む事ができましたね。普段の買い物やサイクリングにも活用できて、とっても便利なサービスです。
クラウドファンディングで蘇った日野駅
赤電は「日野駅」に到着。
今年(2020年)日野駅に併設して鉄道ミュージアムがオープンしたと聞いて、下車しました。
構内踏切を渡り駅舎へ。
昔の駅名板が掲げられています。
ホームの上屋が木製です。レトロな趣き。
日野駅の駅舎は大正5年に建てられたのだそう。
クラウドファンディングで資金を募るなどして、老朽化が進んでいた駅舎はきれいに再生されました。
駅舎に併設して今年オープンした、鉄道資料展示室。
日野駅の歴史や、かつて使われた鉄道用品が展示されています。
中でも興味をひいたのが、この「タブレット閉塞器」。タブレットを取り出すための機械、どの鉄道博物館でも大体展示されていますが、ここではなんと…
タブレット閉塞器の中が見える!
外蓋が外されていて、中の部品や配線を観察する事ができるのです。ここまで見れるのは、なかなか無いのでは!
外に出ると、何やら見慣れない黄色い機械が展示されています。
これは「タッグローダー」といって、貨車を移動させるのに使われていたのだそう。
1969年製で、現存するのは国内で数台しかない、とっても貴重なものなのです。
昔の機械って、シンプルで武骨でカッコいいですよね。
次の電車までまだ時間があるので、駅舎の中にあるカフェでひと休み。
大きなシフォンケーキとコーヒーを頂きました。
目の前が線路なので、電車が来るのがすぐわかります。そろそろホームに戻りましょう。
貴生川へ行く電車を眺めながら、反対ホームへ。
ホームの上屋の一部が不自然に開いているなーと思ってたけど、外を覗いてみたらこんなにきれいな眺めが!まるで額縁みたい!
しばらくして、八日市方面へ行く電車が入ってきました。
「ガチャコン、ガチャコン…」
電車の音がそうやって聞こえるので、地元の人は近江鉄道のことを「ガチャコン」と呼んでいるのだそう。
ガチャコンは「八日市駅」に到着。近江鉄道のマスコット「がちゃこん」がお出迎え。
線路には二代目「あかね号」が留置されていました。乗りたかったなー。
歴史や貴重な鉄道用品を展示、近江鉄道ミュージアム
八日市で降りた理由は「近江鉄道ミュージアム」を見学するため。駅の中にあって、電車で来た人は誰でも見学可能です。
近江鉄道の歴史や昔の鉄道用品などが展示されています。
さっき見た「あかね号」の初代の一部が展示されていました。
マスコンとブレーキも「ガチャガチャ」と動きます。ところで近江鉄道のブレーキハンドルって、変わったカタチをしてますよね。
昔の電車の写真とか鉄道用品とか、じっくり見てると結構時間が経ってました。見応えあるのに実質"タダ"なんて、素敵です!
老朽化が進む貴重な駅舎、新八日市駅
結構立派な駅舎。今度は、八日市から近江八幡へ分かれる八日市線に乗ります。
さっきと同じ、青い電車。
かと思いきや、今年(2020年)8月にデビューしたばかりの電車でした。
ひとつ隣の「新八日市駅」で下車。
ここで降りた理由は、1922(大正11)年に建てられた駅舎を見学したかったから。
かつては、近江鉄道の前身「湖南鉄道」の本社が2階に入っていたのだそう。
西洋風の外壁の上に瓦ぶき屋根。この和洋折衷のスタイルは明治以降に流行したのだそう。
先ほどの日野駅とは違って、こちらは手を加えられておらず老朽化が進み、待合室も暗くて若者のたまり場になっていました。
改修も検討されているそうですが、歴史的に貴重な駅舎を損なうことなく保存して欲しいと願います。
今回は時間の都合で近江八幡までは行かず、八日市から本線をさらに北上します。
黄色いボディの電車が来ました。近江鉄道といえばこの色のイメージ。
五箇荘駅だったかな。左へ伸びる廃線跡みたいな線路。後で調べたけど、正体はよくわからず。
一直線に伸びる線路を「ガチャコン、ガチャコン…」と、音を立てて走ります。
左側から新幹線が迫ってきた!
五箇荘から高宮の間は、東海道新幹線と並走します。新幹線は270km/h、片や近江鉄道は60km/h。
多賀大社への参拝者を運ぶ多賀線
電車は「高宮駅」に到着。
ここで一旦下車。高宮から分かれる「多賀線」に乗り換えます。
右側の1・2番線が「本線」、左側は3番線で電車が止まっているのが「多賀線」。乗換えしやすいように、2・3番線が扇形になっています。
多賀線へ繋がる3番線は急なカーブ。
多賀線の電車には、近江鉄道の鉄道むすめ「豊郷あかね」がラッピングされています。生ビール片手なのは、人気のイベントの「ビール列車」がモチーフなのかな?
2番線に来た彦根からの電車と連絡して、多賀大社行きは発車。
多賀線の途中にあるのは「スクリーン駅」の1駅のみ。「大日本スクリーン製造」の工場の前にあるから「スクリーン駅」。
高宮から約6分で終点「多賀大社前駅」に到着。
その名の通り、多賀大社への最寄り駅。
多賀大社までは、駅前の大鳥居をくぐって徒歩約10分。
折り返しの電車まで30分あったので、多賀大社まで参拝してきました。かなり早足で歩いてギリギリ(笑)
再び「高宮駅」に戻ってきました。
3番線の外側には留置線があって、西武鉄道からやってきた電車が保管されています。これから改造されてデビューするのかな?
高宮から彦根まで乗った電車がまさに、さっき高宮に止まっていた車両を改造したやつですね!
鉄道の町「米原」へ
「彦根駅」で最後の乗り換え。ダイドーコーヒーラッピングの電車で、終点米原を目指します。
途中にある佐和山トンネルは、近江鉄道で唯一のトンネル。
「鳥居本駅」の駅舎は、1931(昭和6)年の開業当時からのもので、登録有形文化財にも指定されています。今度はゆっくり見学してみたいですね。
再び新幹線が迫ってきました。タイミングよくN700系が撮れた!
びわこ京阪奈フリーきっぷの旅も、まもなく終点です。
電車は終点「米原駅」に到着。
今回巡った2ヶ所の鉄道ミュージアム、歴史的に貴重な駅舎、そして鉄印の記帳ができる信楽駅など、鉄道ファンにとって魅力がいっぱい。楽しい"乗り鉄旅"になること間違いなしです。
皆さんもぜひ「びわこ京阪奈フリーきっぷ」で旅してみては!
近江鉄道の活性化、沿線開発の促進などを掲げて構想されている「びわこ京阪奈線」。しかし、単線でカーブも多い近江鉄道や、ディーゼルカーが走る信楽高原鐵道の大改造が必要。さらに近江鉄道は赤字が続いており、実現のハードルはかなり高いよう。
今回使用したフリーきっぷは、電車を使ってもらって少しでも実現に近づけようと企画された、涙ぐましい努力のひとつ。
まずは経営の厳しい両鉄道を存続させるためにも、いま一度魅力を知ってもらいたいですね。