大井川鐵道には2つの路線があります。1つはSL急行で有名な「大井川本線 (金谷〜千頭間)」。今回はもう1つの路線「井川線 (千頭〜井川間)」に乗車。日本で唯一のアプト式鉄道を有する、およそ1時間50分の旅です。
*2020年6月の情報を基に作成しています
- 赤くて小さな客車でゆく井川線の旅
- 井川線の始まりはダム建設のための森林鉄道
- 日本で唯一のアプト式鉄道
- 観光客で賑わう「奥大井湖上駅」
- 秘境区間を走りさらに奥大井の山奥へ
- 奥大井65キロ列車の旅の終着点
- ゆっくりと山を下る小さな列車
- 関連リンク
赤くて小さな客車でゆく井川線の旅
旅のスタートは、大井川本線の終点「千頭駅」。今回は千頭までEL急行に乗車してきました。
井川線、愛称は「南アルプスあぷとライン」。本線から一段低いホーム6番線から発車します。
本線の車両と比べると、ひと回り小さなサイズ。女性の身長でも少し屈んで乗車しないといけません。
ドアは手動式。車内から隣の車両へ移ることもできません。
車内の写真だと、その小ささがよくわかると思います。この日は空いていましたが、満席になるとかなり窮屈に感じるかも。
ちなみに車窓を楽しむなら、千頭駅から井川駅方面へは右側、逆は左側がおすすめです。
ここで、井川線ならではのおもしろポイント。
機関車と客車を繋いだ列車は、機関車が先頭にある必要があるので、終点の駅で機関車を入換しなくてはいけません。ところが井川線は、機関車の入換をしなくてもいいように、客車にある運転席から遠隔でディーゼル機関車を操作する事ができるのです。
なので、ディーゼル機関車は千頭方に固定。往路は後ろからプッシュ、復路は引っ張って走ります。
往路なら、運転席の後ろに座れば前面展望も眺めることができます。ちなみに復路は、ディーゼル機関車が先頭になるので前面展望を望む事はできません。
運転席を観察していて不思議に思ったのが、2種類のマスコンがあること。理由はあとでわかります!
井川線の始まりはダム建設のための森林鉄道
出発進行!定刻通りに千頭を発車。
最初の駅「川根両国駅」に到着。ホームが低くてほぼ地面と一緒!
井川線の開業は1935年(昭和10年)。元々は、大井川水系の水力発電所建設の為に、資材運搬用として造られた森林鉄道でした。だからこんなにミニサイズの鉄道なのですね。
山間の斜面を走るため勾配やカーブの連続のため列車はゆっくりと走行。
終点の井川駅までになんとトンネル61カ所、鉄橋55カ所を越えていきます。
山間部の奥深くを走る井川線には、見どころ満載の景観が続きます。
千頭駅から1つ目の川根両国駅を越えた直後には両国吊橋。
目の前に広がる茶畑。
大井川の美しい川面。時には山々が鏡のように映る美しい姿が見られるかも。
駅前に小さな集落がある「奥泉駅」。
頭上に真っ赤な泉大橋を超えると、次は「アプトいちしろ駅」です。
日本で唯一のアプト式鉄道
列車は、アプト区間がはじまる「アプトいちしろ駅」に到着。
アプトいちしろ〜長島ダム間は、日本で唯一のアプト式鉄道。
アプト区間では通常の線路に加えて、写真のレール中央に見える「ラックレール」というデコボコした歯形のレールに、機関車についている坂道専用のラックホイールピニオンを噛み合わせながら走行します。
鉄道日本一の急勾配を走行するため、列車の後部に強力なアプト式電気機関車を連結します。
連結完了!
奥に見えるのが客車とディーゼル機関車。アプト式機関車とのサイズの違いがよくわかると思います。
アプトいちしろ駅を発車。
アプト区間では、先ほどまで使用していたマスコンではなく、左側の大きなマスコンを使用しています。マスコンが2種類ある理由は、アプト式機関車と連結時に使用するからなんですね!
列車が進むのは、日本一の急勾配「90‰」。
つまり、直線で1000m走行する間に90mの高さを上り下りするのです。
後ろから押す、アプト式機関車。
線路を登って行くと…
さっきまでの線路が眼下に。
長島ダムが見えてきました!デカい!
奥泉〜接狭峡温泉間は、長島ダムの建設に伴い現在の線路に切り替えられました。
ダムのたもとにある吊り橋。水飛沫がかかるから「しぶき橋」と言うのだそう。
キャンパーと手を振りあいながら、列車はまもなく「長島ダム駅」に到着。
アプト区間はここまで。アプト式機関車を切り離し、列車は再びディーゼル機関車で動き出します。
観光客で賑わう「奥大井湖上駅」
目の前に広がるのは、長島ダムのダム湖である「接岨湖」。
接岨湖を渡る赤い橋「奥大井レインボーブリッジ」を渡ると、湖上に浮かぶように佇む「奥大井湖上駅」に到着。
湖上駅という駅名ですが、実際は接岨湖に突き出た半島状の陸地の突端に位置します。
周辺に民家はない秘境駅ですが、接岨湖の絶景が望めることから、観光客に人気の駅。実際にこの日もほとんどの乗客が「奥大井湖上駅」で下車しました。
最近では、恋に効く「奥大井恋錠駅」として、恋愛・結婚・子宝にまつわる静岡県のエンゼルパワースポットしても人気なのだとか。
奥大井湖上駅を出ると、眼下にはダム湖に沈んだ旧線の遺構が見えてきます。
さらに列車は、奥大井の山間部を進んで行きます。
秘境区間を走りさらに奥大井の山奥へ
接岨峡温泉を過ぎ、列車は「尾盛駅」へと到着。
1日平均乗降人数は、なんと1名。秘境駅ランキングの2017年度版では第2位にランクイン。周辺には道路も歩道もなく、井川線でしか行くことができません。
もちろん周辺には家もなく、出迎えてくれるのは愛嬌のあるタヌキの置物だけ。
かつては尾盛駅周辺にはダムや発電所建設のための作業員宿舎があり、当時は日常的に駅を利用する人もいたのだそう。
尾盛駅を発車。いくつかトンネルを抜けると現れる鉄橋は「関の沢橋梁」。なんと渓谷の下から70.8mの高さ!この高さは日本一の鉄道橋なのだそう。
列車はゆっくり徐行してくれます。眼下の渓谷を覗くとこんな感じ。ひゃ〜っ…高い!
閑蔵駅と終点井川駅の1区間は約5kmあり、大井川鐵道で最も長い駅間です。
奥大井65キロ列車の旅の終着点
最後のトンネルを抜け、大井川鐵道の終点「井川駅」に到着。
千頭から1時間50分。
実はここで線路は終わりではなく、まだトンネルの奥へと続いています。かつてはこの先の堂平駅まで線路は続いていましたが、1971年に廃止されたのだそう。
井川駅は海抜686m。静岡県の普通鉄道の中で最も高い場所
階段を降りると道路に出ます。
駅前には、なにもありません。
駅から少し歩くと「井川ダム」の近くまで行くことができます。
井川ダムは、昭和32年に完成した日本初の中空重力式コンクリートダムで、堤体内部に空洞があるのが特徴です。
ダムのそばには、ダムの仕組みなどを学べる井川展示館(無料)があり、ダムの壮大な雰囲気を高い位置から見渡すことができるのだそう。
ゆっくりと山を下る小さな列車
再び駅に戻ります。次は15:54発、なんと最終列車です。
帰りはディーゼル機関車が先頭。
急勾配を登り下りするための強力なエンジン音が、山々にこだましていました。
再び奥大井の山奥へ歩みを進める列車。
キーキーと車輪の軋む音を立てながら、列車はゆっくりと山を下ります。
SL列車で有名な大井川鐵道ですが、雄大なダム湖を眺めながら奥大井の山間部へと歩む井川線(南アルプスあぷとライン)の旅も、ぜひ楽しんでみてはいかがでしょうか。
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